国内では約290万人の外国人が生活しており、彼ら彼女らは様々な在留資格で日本に滞在している。その在留資格の一つである特定技能について、在留期限がなくなる方向で調整が進められている。今回は、特定技能の在留期限がなくなることによりどのような変化が起きるのか、考察していきたい。
特定技能のおさらい
国内で生活する外国人は’21年6月末時点で約282万人で、その活動内容などによって「永住者」(約81万人)、「技能実習」(約35万人)といった在留資格が与えられる。その中の一つ、出入国管理法改正で’19年4月に導入された特定技能は、技能試験や日本語試験の合格を条件に、人手不足が深刻な業種14分野での就労を認めている。 具体的には、実務経験を持ち特別な教育・訓練が不要な人は最長5年の「1号」を、現場の統括役となれるような練度を技能試験で確認できれば「2号」を取得できる。この2号では、在留期間の更新が可能で、家族の帯同が認められる。また在留10年で永住権も取得可能となる。 ‘21年8月末時点で約3万5千人の外国人が特定技能として働いており、飲食料品製造業が約1万2千人で最多となっている。全体の約8割は、日本で学んだ技能や技術を本国の経済発展に生かす目的で設けられた技能実習からの移行組が占めるが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて帰国が困難になった人が、実習終了後も日本に残るケースも見られる。
日本の保守的な外国人受け入れ体制
政府はこれまで、「移民政策は取らない」との方針を示し、外国人の長期就労や永住に慎重な姿勢を取ってきた。特定技能においても、14分野のうち12分野は在留期間が最長5年の1号に限定。長期就労できる2号の対象となったのは建設など2分野だけだった。 長期就労は主に大学卒業以上が対象の「技術・人文知識・国際業務」(約28万人)などに限っている。農業、産業機械製造業、外食業など14分野で認められている特定技能も、‘20年10月末時点で国内の外国人労働者は172万人。在留期間が最長5年の技能実習(約40万人)や留学生(約30万人)など期限付きの在留資格が多く、長期就労できるのは人手不足が慢性化している建設、造船・舶用工業の2分野にとどまる。 ‘19年の特定技能制度導入当初、入管庁は5年間で最大34万5千人の受け入れを想定していたが、新型コロナウイルスの水際対策で外国人の出入りが制限された影響もあり、‘21年8月末時点で約3万5千人と予想を大きく下回っている。日本商工会議所の調査*によると、外国人材の受け入れに関心のある企業、つまり人手が足りていない労働現場は多いため、特定技能制度を拡充は急がれる課題である。
引用: https://www.jcci.or.jp/news/jcci-news/2021/0930140000.html
入管政策の大きな転換点
そんな特定技能だが、大きな転換を迎えようとしている。’22年度にも事実上、在留期限がなくなる方向で調整が進められているのである。現在、特定技能の対象業種14分野のうち在留資格が何度でも更新でき、家族帯同も可能な2号の対象は建設など2分野だけだが、農業・製造・サービスなど13分野にも広げられる予定だ。
すでに長期就労制度が設けられている介護(日本の介護福祉士の資格を取れば在留延長が可能)を含めて、特定技能の対象業種14分野すべてで「無期限」の労働環境が整うこととなり、専門職や技術者らに限られてきた永住権が、労働者とその家族にも幅広く開かれることとなる。在留が10年以上になると永住権取得の要件を満たすからだ。 このように、外国人就労者が将来的に日本に残る選択肢が増えることで、少子高齢化により弱体化する国内の中小企業を中心に、後継者育成や技術継承の問題を解決する糸口となるかもしれない。 特定技能の重要性はわかったが、そもそも多くの外国人を受け入れる体制が日本社会に整っているのだろうか。
外国人就労を受け入れるに当たり生じる課題
国内の労働現場における人手不足の深刻化とともに、政府は外国人労働者の受け入れを拡大してきた。
上記で触れた特定技能制度の転換がそのわかりやすい例だが、そもそも日本社会に多くの外国人材を迎え入れる準備は整っているとは言えない状況である。
相談体制 ~ 様々なトラブルに対応する環境が必要である。
特定技能の資格で働く人が増えるにつれ、支援団体には賃金や解雇を巡るトラブルの相談が増えていくことが予想される。技能実習の場合は、受け入れ窓口である「監理団体」が実習状況を確認したり、第三者機関の「外国人技能実習機構」が監理団体などを実地検査するといった仕組みがある。
しかし、特定技能は公的な第三者機関が受け入れ企業を検査したり、多言語で相談に応じたりする制度がない。企業から委託を受けた「登録支援機関」が支援するのみである。
ここに、技能実習機構のような企業から独立した相談体制を整えるという大きな課題がある。
教育と社会保障 ~ 帯同が認められる家族への支援が欠かせない。
子どもが良い教育を受けられるかどうかは、来日を判断するうえで重要な条件となるが、外国出身の児童生徒向けの教育体制は現状、全く整っていない状況である。
文部科学省の’18年の調査*で、日本語指導が必要な児童生徒約5万1千人のうち、半数以上が「指導者がいない」といった理由で日本語の授業を受けていなかった。高校への進学を諦めるといった弊害も出ており、教育の充実度は世界的にみても低い。50カ国以上の研究者が各国の多文化共生の取り組みを比較した「移民統合政策指数(MIPEX)’20年」** で、日本の教育政策は各国平均を下回った。 その他にも、医療や社会保障をきちんと受けられる体制づくりも求められる。日本で3カ月超働く人は健康保険に入る仕組みなどはあるが、医療期間の多言語対応という面においては他国に比べて環境整備が劣っている。‘22年1月現在、世界でオミクロン株が猛威を振るっているが、この新型コロナウイルス禍から回復するにつれ世界では人材の争奪戦がより激しさを増すだろう。
日本が外国人労働者に「選ばれる国」になるには、多言語の相談窓口の整備や日本語指導が必要な子ども向けの教育体制の強化が急務である。
外国人就労者が長く働けて、安心して家族と暮らせる環境が整えば、日本の特定技能制度をはじめとした在留資格は、海外から見てより魅力的な制度になるだろう。
引用:*https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/09/1421569_00001.htm
** https://www.mipex.eu/japan