HPI

【革新】イギリスの新しいビザ “HPI” 今後さらに加速する高度人材の獲得競争について

イギリスで新たに導入されたHPIビザ。ハイランク大学の卒業者を対象に2〜3年の居住許可が与えられるという制度で、高度人材の獲得競争の口火を切る政策とも言える。各国の高度人材の獲得事例を交えて紹介していきたい。

HPIビザとは

5月30日、イギリスで新たなビザ制度「High Potential Individual visa route(ハイポテンシャル・インディビジュアル・ビザ・ルート」(以下、HPIビザと表記)が開始されました。これは、世界トップクラスの大学卒業者に対して、現地企業の雇用契約なしで2〜3年の居住許可が与えられるというもので、自由に雇用主を変えたり自身で事業を始めることも可能となります。

他国の大学卒業者に、現地企業の雇用契約なしでビザが与えられるのは異例で、高度人材の確保に対するイギリス政府の本気の姿勢が伺えます。トップクラスの大学卒業者とありますが、どんな人材がこの制度の対象となるのでしょうか。

参照:UK Innovation Strategy

制度に該当する人材とは

まず、対象は世界ランキングトップ50位以内の大学の卒業者です。以下3つの世界の大学ランキングのうち、少なくとも2つで50位以内にランクインしている必要があります。(学部不問)

日本からは東京大学と京都大学がランクインしております。

 

また、以下4つの条件も満たす必要があります。

  1. 申請から5年以内に大学を卒業していなければならない
  2. 世界ランキングは、卒業した年のものを参照する
  3. 英語を除く言語で学位を取得している場合は、認定された英語試験でB1レベルの合格が必要
  4. 1270ポンド(約21万円)の預金がある(海外から入国許可を申請する場合)

扶養家族の滞在も許可されており、イギリス内で自由に働けます。この扶養家族とは、パートナー(配偶者、及び2年以上同居している継続的な関係)と18歳未満の子どもを指します。

イギリスの狙いと制度の背景

ハブ(Hub)という言葉をご存知でしょうか。

中心・中核という意味で、世界一の物流拠点であるシンガポールのことをよくハブ港と表現したりします。

そして、このHPI制度の狙いこそ、“2035年までにイギリスをイノベーションのグローバルハブにする”ことです。文字通り、イギリスがイノベーションにおける世界の中心国になるための戦略ということです。

背景には、新型コロナで打撃を受けた経済を回復させるという意図もあり、2021年7月にイギリス政府が発表したイノベーション戦略(UK Innovation Strategy)にて初めてHPI制度が紹介されました。

Our Key Actions

2: People

  • Introduce new High Potential Individual and Scale-up visa routes, and revitalise the Innovator route to attract and retain high-skilled, globally mobile innovation talent.

 

4つのキーアクション、つまり核となる政策が紹介されていますが、その2つ目に据えた“People”こそが、人材への投資、すなわちHPI制度の導入となります。

他国の似た制度

現地企業の雇用契約なしでビザが与えられるのは世界的に見ても異例ですが、実はオランダにも似た制度があります。2016年3月に発効された「orientation year residence permit(オリエンテーション・イヤー・レジデンス・パーミット)は、世界の大学ランキングで200位以内の大学卒業者に1年間の居住許可が与えられます。

参照しているランキングはイギリスと同様で、3つのうち2つで200位以内にランクインしている必要があり、卒業・修了日、または博士号取得日のランキングが対象となります。

また、卒業後3年以内に申請しなければなりません。英語あるいはオランダ語ではない言語で学位を取得した場合は、IELTSの6.0以上のスコアが求められます。

デジタルの普及との関わり

コロナ禍で一気に普及したリモートワーク。国内における在宅勤務、遠隔勤務は広まりを見せつつありますが、世界の先進的な企業は、そのさらに先、つまり国境を越えた遠隔勤務を導入しています。

例えばアメリカでは、他国に暮らしながらアメリカ企業に所属する「テレマイグランツ(デジタル移民)」の流れが加速しており、特にインド人エンジニアにその動きが多く見られ、インドで暮らしながら米国企業に所属するエンジニアが急増しています。

双方にメリットがあり、企業側は自国に招かずとも低コストで雇うことができ、社員も自国にいながら米国基準の高い給料を得ることができます。デメリットとしては時差でしょうか。イノベーションの最先端では、社員同士のタイムリーなコミュニケーションが欠かせないのは言うまでもありません。

国境を越えた遠隔勤務により、生活環境や家庭の事情で自国に留まりたいという優秀な人材を取りこぼさずに雇い入れ、またHPIビザのような革新的な制度により、優秀な人材を実際に自国に招いてイノベーションの最前線に就いてもらう。

これこそがイノベーションハブになるための条件であると考えます。

まとめ

今回ご紹介した革新的なHPI制度。

異例とも言えるこの制度には、イギリス政府の本気度、リスクを背負う覚悟が表れており、実施の背景には、新型コロナにより打撃を受けた経済の回復、そしてイギリスをイノベーションのグローバルハブにするという目的があります。

こういった高度人材の囲い込みは今後、世界各国でさらに加速すると見込まれます。

日本では2019年に、人手不足が深刻な分野を対象に、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れる特定技能という就労ビザが導入されましたが、今回のイギリスのHPI制度とは導入の経緯も目的も一線を画しています。政策の失敗は漏れなく糾弾される日本の政治下において、このような革新的な制度が導入される日は来るのでしょうか。

現在の日本は、多くの外国人にとって、観光で訪れるには良いが定住するには向かない国です。それは語学面、学校教育や閉ざされた地域コミュニティなどに要因があり、これらを解決しない限り、高度人材を迎え入れる革新的な制度が導入されたとしても、定住には繋がらず、不発に終わるのは目に見えています。

こういった現状を考慮すると、まずは海外の高度人材が遠隔勤務しやすい環境を整えて、雇い入れて、日本が起点となるイノベーションを生み出し加速させることにより、経済を活性化させて賃金面において魅力ある日本を取り戻す必要があります。そして同時並行で、生活面においても“外国人にとって住み良い日本”の整備を進め、実際に日本に住みたいという外国人を増やしてから、高度人材が滞在しやすい制度を打ち出すのが良いと考えます。

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